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世界中に花束を 15

2010.04.20 *Tue
⑮side Akira♀(20)


「す、すみません!」

誰もいない店内にボクは大きめの声で呼び掛ける。

「はい?あぁ、まだ準備中っすけど。」
と見た事もない赤茶の髪にボルドーのシャツ、進藤くんとお揃いの黒いサロンをつけた
猫目の青年が奥から顔を出した。

どうやら掃除をしてたらしい彼は、変わった形のホウキを手にしていた。

―新しいスタッフが入ったのかな?

「お忙しいところ申し訳ありません。あのっ、進藤くんはいらっしゃいますか?」

「え、進藤?…は、まだ出勤してないっすけど…。」

「えっと、何時頃いらっしゃいますか?」

「確実な時間はわかんないっすけど、遅くても夕方までには来ると思います…
 って、アンタもしかして"塔矢アキラ"か?」

「えっ?どうして…?」

―まさか、進藤くんがしゃべったのか?

「やっぱりな。どっかで見た事あると思ったんだ。
 …そりゃあ、囲碁やってるヤツなら誰でも知ってるんじゃないっすか?
 アンタの事は。」

―ん?進藤くんに聞いた訳じゃないのか…?

「キミも囲碁を?…まさかっ!?キミが彼に碁を教えたのか!?」

なんだよ、急に!?と彼が顔をしかめた事に気付いたボクは…
彼に詰め寄ってしまっていたらしい。
ボクは恥ずかしくなって、すまない…と小さく呟いた。

「オレが教えたんじゃねぇし、アイツとは打った事もねぇよ!」
と彼はまだ怪訝な顔をしている。

「では、誰が!?やはり、お祖父様なのか!?」

「お祖父様って…知らねぇよ!本人に聞けばいいだろ?
 アイツは棋院に行ってんだから!アンタの職場じゃないのかよ?」

「…棋院!?」

「あぁ!今日はそれで遅くなるって。」

「…分かった、ありがとう。邪魔してすまなかった。」

じゃあ、とボクはあわてて、その店を飛び出した。



市ヶ谷へ向かう電車の窓から、流れる景色を見ながら思い出す。
彼と対局した日から、あの盤面が頭の中に焼き付いて離れない。

―2目差とか…そんなレベルの話じゃない…。

秀策流の布石、秀策のコスミ。今はもう使われなくなった古い定石。

確かに秀策は人気で150年たった今でも彼の棋譜が多くの人々に並べられ、
研究されている。
初心者でなくても秀策を真似て打つのは、なんらおかしい事ではない。
だが、彼の碁は…古い定石を使っているにも拘わらず、
あれほど研究を重ねられた現代の定石にビクともせず、
むしろボクとは次元の違うところで打っていた。

―確かに彼を初心者だと思い油断したのは事実だが…
 それでも女流三冠のボク相手に、彼の方がまるで指導碁の様な碁を打つなんて!
 あの一手も…そう、あの一手もだ!
 あれが本当に彼の実力だとしたら…。
 いや、ありえない。そんな事、ありえるハズがないんだ!

雑念を取り払うかの如く頭を振り…視界の端に見慣れた市ヶ谷駅ホームの風景が
流れ込むのを捉えたボクは、扉が開くのに焦れてドアの真ん前にへばり付いていた。


◇◇◇


「おい!オマエどうしたんだよっ!?真っ青だぞ!!」

「和谷さん…。」

ボクは逸る気持ちを辛うじて抑え、走り出す一歩手前で棋院前の坂をあがって来た。
入口のドアを開けるのさえ欝陶しく思いながら棋院の中に入ると、
そんな会話が耳に飛び込んできた。

病人だろうか?と頭の隅で思ったが、今のボクはそれどころではなく…
息を整えながら、進藤くんはいないかとロビーをきょろきょろ見回した。

「和谷さん…強いヤツがくる…。」

「えっ?何?」

「だから、プロに強いヤツがくるんだって!」

ボクはその声にピクンと反応してしまい、改めてその会話の主達を見た。

一人は確かボクの一年後に入段した和谷くんだったか…。
もう一人は名前は知らないが今年入段した子のひとりだろう。
少し前の週間碁で見た気がする。

「は?オマエ落ち着けって。もうちょっと分かりやすく説明しろよ!な!?」

「うん…オレ、さっきソイツと打ったんだよ。全然顔も見た事なくて…
 ソイツ、オレの事を院生だって思ったらしくて"一局打とう"って。」

「うん、それで?」

「オレも舐められてるって腹立って、叩きのめすつもりで打ったんだよ。
 そしたらソイツ、初心者の手つきで古い定石ばっか使うのに…
 オレ、一生勝てないって思った…。」

一生勝てないってどういう事だよ!?と和谷くんは大声を張り上げてたけど、
直感的に"彼だ!"と思ったボクは…気が付くと既に階段を駆け上がっていた。

対局したという事は一般対局場か…まずは二階だな!と、
二階に着くやいなや売店を横目に一般対局場を覗く。

…ひと通り見回したが、彼らしき人は見当たらない。

―もう、帰ったのか?それとも違う階にいるのか?

駅からここに来るまで、彼には会わなかった。
もちろん、電車以外の交通手段の可能性も大いにある。
しかも彼はバイクも乗るような事を言っていたし。

でも、せっかくここまで来たのだから…
とにかく探すだけ探してみようと、エレベーターの方に足を向けると…
ちょうどチンっという軽い音がエレベーターの到着を告げていた。

「あっ!アキラちゃんじゃん!」
と探していた人物がエレベーターの中から顔を出し、笑顔で手を振っている。

ボクは急に探し人が目の前に現れて、一瞬声が出せなかった。

「会えるかな?とは思ってたけど…まさかホントに会えるとはな~v今から仕事?」

「あ…いえ、まぁ。」

「オレはさ~棋譜買うの忘れちゃって~。」
と彼は早速、売店に近寄って行く。

「あ、コレ、コレ!この碁罫紙ってヤツ下さい!」

彼と売店スタッフのやり取りを聞いている内に、
なんとか平静を保てる様になったボクは望んでいた事を口にした。

「今から一局打たないか?」

「え、マジ?アキラちゃん、また打ってくれるの?」

支払いが終わった彼は、ボクを見て大きな瞳を輝かせている。

「あぁ、キミがよければ。」

「いいよ、いいよ~vアキラちゃんと一緒に過ごせるなんて、ちょ~幸せだぁ~v」

ボクは彼が承諾してくれた事に少しホッとして、じゃあ一般対局場で打とうか?と
言いかけたところで遮られてしまった。

「あっ、そうだ!すっかり忘れてた!」
と彼は横を見ながら、困った様な顔をしだした。

「ごめん!アキラちゃんとは一緒にいたいけど、オレもこれから仕事だった!
 ホント残念だけど…また、今度でもいいかな?」

そういえばお店の人がそんな風な事を言ってたなと思い出す。

「うん、今度でもいいけど…。」

「良かった!じゃあ、メアドと番号教えてよv
 オレは午前中から昼過ぎくらいまでなら比較的大丈夫だから。
 店が休みの時は一日中でもOKだけどv
 その辺りでアキラちゃんの都合のいい日、連絡ちょうだい?」

「うん、分かった。必ず連絡するよ。」

ボクは少し気圧されながらも辛うじて、そう答えたのだった。


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2010/04/20
Par KIA fr
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COMMENT

こんばんは
KIA fr様、こんばんは。虎耶です。

「世界中に花束を」楽しく読ませて頂いてます。
最初、このヒカルは碁を打たないのかなと思ったのですが、打つようになって嬉しいです。別にパラレル設定の話とかも良いんですけど、やっぱり碁を打つヒカルが一番好きなので。
それにしても、KIA fr様の書かれるアキラは可愛いですね!恋する一歩手前の初々しさが素敵です~。
ヒカルがアキラのライバル兼恋人になるのが楽しみです。その前にヒカルは自分で碁を覚えないといけないですね。

これからも頑張って下さい。それでは、失礼します。
2010/04/27(火) 00:11:03 | URL | 虎耶 #FzkxLSd. [Edit

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